ここ数ヶ月で、勝手に何人にも勧めているのが、山崎ナオコーラさんの『かわいい夫』。
夫や彼氏になにかしら不満を抱えている様子で、
しかし客観的に聞いていると、その不満の内容が微笑ましいものだったりする場合に
「まぁとにかくこの本を読んでみてよ」と勧めることにしています。
西日本新聞での連載記事に、ほぼ同量のボリュームの書き下ろしを加えたエッセイ集で
私は山崎ナオコーラさんの作品をはじめてちゃんと読んだのですが
なんだがすごく感動して、彼女の文章が大好きになりました。
文章のトーンとしては「低め安定」という感じで終始淡々としているのですが
疲れているときに読んでもすっと心に入ってきて、
じんわり内側からお腹を温めくれるような、不思議な味わいがあります。
凝った表現もなく、インパクトの強い出来事が書いてあるわけでもないのに
意外なほど強い力でぐーっと引きつけられてしまい、
一篇読み終えるたびに幸せなため息が出たり、静かな涙がこぼれたり。
こんなに削ぎ落とされた文章で、なぜこれほど豊かな余韻があるのだろうと、
うっとりしながら読みました。
内容は、帯にずばり書いてあるのですが、「結婚エッセイ」。
書店員の旦那さんとの日々に起こる小さな出来事を綴っているのですが、
読んでいるうちに「パートナーと暮らすこと」の現実が
肌で伝わってくるような感覚があります。
夫だけでなく、親との付き合い方についての思いも等身大で語られていて
30代40代の人はとくに共感して読める内容だと思いました。
それにしても、『かわいい夫』というタイトルが素晴らしすぎる。
中身は、夫自慢に終始しているわけではなく、むしろ
「言いたいことはいろいろあるけど、かわいい(と思える)」という話が中心です。
それを笑ったり泣いたりして読み進めながら、自分も最後には
「結局は相手を『かわいい』と思えれば全部OKなのかも」というところに落ち着ける。
それでちょっと気持ちが軽くなり、ちょっと幸せな気持ちになる。
そんな素敵な本です。
→ 『かわいい夫』(夏葉社)
夏葉社さんサイトの2015.12.05の記事に詳しく載っています。