写真家の安彦幸枝さんが新しい作品集を上梓されました。
タイトルはずばり『庭猫』(パイインターナショナル刊)。
実家の庭に住み着いた猫を、2年以上の歳月をかけて撮り続けた写真集。
最初の一匹が、あるとき似たタイプの弟分を連れてきて二匹に。
安彦家には家で飼っている猫ちゃんも二匹いるため家猫と庭猫の区別は明確にありつつ、
それでもご両親はエサを与え、庭の手入れをするように庭猫を可愛がります。
言葉での説明は最小限に留められ、私たちはページをめくりながら
庭猫の人生に思いをはせ、じんわり笑ったり、しんみりしたり。
猫という存在の不思議な魅力を堪能できる写真集としてはもちろん、
私が一冊の本としていいなと思ったのは、文章以外にも各要素の抑制が利いていて
引き算の魅力が際立っているところ。
写真も、撮影期間を考えればおそらく膨大な枚数があったと推測できますが
1ページ1点というボリュームに絞り込んであることで
見る側のイメージが却ってかき立てられ、
最後のページまでめくると、また最初から開きたくなるのです。
11月刊行予定の私の新刊でも全編の撮影を担当してくださっている安彦さん。
取材先に猫がいるときのテンションの高さから彼女の猫愛の深さは知っていましたが
この『庭猫』では、そうした愛情や興味に加えて
写真家としての冷静な視点をしっかり持って表現されているように感じました。
猫を通じてご実家やご両親のある時期の姿をきちんと記録している点でも
写真家という職業がなんだかうらやましくなるような、とても素敵な作品でした。