海沿いの道を自転車で向かったのは、おのみち映画資料館です。
以前奥さんがひとり旅で訪れたのは、小津安二郎の映画に憧れたからだそう。→ BLOG
志賀直哉と歩く小津の写真を見つめながら、「おしゃれな2人だね」としきりに感心していました。
徹底したローポジションのカメラアングルで知られる小津映画。低い位置にカメラをセットできる機材を見て、もう一度じっくり観てみたくなりました。(学生時代に何本か観たのですが、すべて途中で寝てしまった苦い記憶が蘇ります)
次に僕らが向かったのは、御袖天満宮。この長い階段を見てピンときませんか?
そう、映画『転校生』で2人が転がり落ちて、性別が入れ替わってしまったあの階段です! 主演は尾美としのりと小林聡美。1982年の公開当時は2人とも17歳でした。初主演とは思えない瑞々しい演技を、中学生だった僕は母とテレビで見て大笑いしたことを覚えています。その年のアカデミー新人賞を受賞した2人が、今も変わらず活躍しているのもいいですよね。
懐かしさや寂しさとはなんとなく違う、尾道にしかない独特の切なさがこの石段にはあります。
車や自転車の通れない坂道の向こうには、ドキドキした少年時代の想いが潜んでいます。
どこを切り取っても物語になりそうな風景は、特別にキラキラと輝くのでもなく、かといって、たださびれているのでもなく、長生きをするおじいちゃんやおばあちゃんのように、自然にたくましく年を重ねてきたから、こんなに切ないのかもしれません。
芯の強い不思議な力がある尾道、映画のロケ地に選ばれる理由がよくわかりました。
次にこの階段を上るときは、奥さんと一緒にゴロゴロと転がり落ちてみようと思います。