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May 22,2015

おいしさの素になる作業

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今週はずっと、秋出版の単行本のためのテープ起こし作業に追われていました。
「テープ起こし」とは取材で録音した音声を聞き返しながらテキストにしていく作業で
とくにインタビューや対談をもとに原稿を書く場合は避けて通れない工程です。
たとえば同業種の人と、仕事の中で好きな作業は何かと言い合うときに
もし「テープ起こしが好き」と言ったら「えー!めずらしいね」と言われる、そんな作業。

本をつくる過程の一つ一つの作業を好き嫌いだけでくくることはできなくて
私の場合、「ひたすら楽しい」のは以前も書いたことがありますが、
コンテの作成(→ BLOG 「イメージ作業」)。
取材は、その時間にどれだけ自分がたくさんの発見や吸収ができるかが
原稿の深さに響いてくるという緊張感から、とても張りつめるため、疲れますが
手応えのある取材ができたときは、机を離れて外へ出たからこその刺激と充実感があります。
そしてやっぱり、自分のエネルギーが一点に注がれる実感とともに「燃える」のは執筆。
テープ起こしは、その執筆において全力を出し切るために必要な作業で
時間はかかるし(私の場合けっこう集中できたと思ってもインタビュー時間の約3倍)、
取りかかる前は正直気が重い。でも会話のやりとりをすべてテキスト化し終えると
「さぁいよいよお楽しみ(執筆)の始まりだ」という気分になります。

料理に置きかえれば、メニュー決めがコンテ、買い出しが取材、調理が執筆だとすると
野菜の皮をむいたり下ゆでしたりといった下ごしらえがテープ起こし......かな?
それ単体で見ると地味で根気がいって楽しいとは言えないけれど
そこをきちっとしておくことがおいしさの素になる気がする、そんな大切な部分。
テープ起こしを他者に頼むという選択もあるようですが
私は取材時の声や会話の雰囲気を思い出しながら相手の魅力を再認識したり
「早く書きたい!」と執筆のテンションが盛り上がっていったりするので
その工程が自分の手から抜けてしまうと考えるだけで、なんだか落ち着かない。
1人1時間半から2時間の取材音声を、現在7人目の方の分をテープ起こし中。
爽やかな陽気と、気持ちのいい庭や縁側の誘惑にふらふらしそうになりつつ、
ぐっと踏ん張るような思いで、狭い仕事部屋の中でがんばっています。

*イラストは『sketch 1』に収録のエッセイ「文章の筋トレ」より。
来月から2ヶ所同時開催する夫の個展では、この原画も展示する予定です。

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Author : Nao Ogawa