縁側の隅の茶箪笥は、世田谷に住んでいた時期に下北沢の古道具屋さんで買ったもので
特別高級なものでも、重厚なものでもないのですが
電球とかアイロンとか、予備の食器とか、こまごまとした日用品をしまうのに便利で
どことなくフォトジェニックに映るのか、取材の機会にはよく撮っていただく家具です。
この家具に関して、取材前に私が習慣づけていることが二つあって
一つは、ごく普通のことですが、ホコリを払っておくこと。
もう一つは、棚の上にいつも置いてある小さな木彫りの人形を
ガラスの引き戸の中にそっとしまっておくことです。
でも取材が終わった瞬間に、人形がまた元の場所に戻っているのが
日ごろ感じているちょっとした不思議。
もちろん、このお方が、お客様が帰られた瞬間に自分で下の棚から這い出て
よっこらしょ、と屋上に上がってくるわけではなく、夫がやっていることです。
そもそも夫は、取材の日にこの人形をしまうことじたいに不満を感じていて、
この人形が棚から消えるとすぐに気づき、
「あー、もう。またしまっちゃってるよ!」と文句を言います。
しかし、これまで何度となく
「そもそもこれって何なの?いつ、どこからやってきたの?」と聞いたのですが
はっきりした返事が帰ってきたためしがありません。
素性がわからないせいで、私のこのお方への畏怖の念はますます高まり、
かといって撮影に写り込んだところでモノの説明ができないし......というわけで
家取材の写真からは外れていただきつつ、
きっと夫にとっての「小さな神様」なのだろうな、とぼんやり想像しています。
そんな夫の「小さな神様シリーズ」に最近、新顔が加わったことに気がつきました。
ステレオセットの上に、いつのまにか、それはいたのです。
これって......トトロでしょうか?
こうした夫の行動や心理はなかなか謎めいていて、
最も不思議なのは、私に何も具体的な説明がないこと。
リアリストの妻に、この小さなロマンは理解できまいと思っているのでしょうか。
実際、こうしたモノにときめくツボは残念ながら持ち合わせていないのですけど(笑)。