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May 08,2018

母と交わした約束

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愛知で暮らしてきた母が、千葉にやってきて2ヵ月近く経ちました。母を誘う時に緊張しながらかけた言葉は「また矢切の渡しに乗って、帝釈天に行こう」でした。ちょうど7年前、2011年のGWに父と母が新幹線に乗って新居に初めて遊びに来てくれました。娘はまだ2歳半でした。

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チャポチャポという水面の音とキィコキィコという船頭さんが舵を切る音を聞きながら、母と奥さんと娘と僕を乗せた船が、江戸川をゆっくりゆっくりと渡っていきます。川の上は風もなく静かで、暖かで気持ちいい光を浴びる母の姿を見て、ようやくここまでたどり着いたという大きな達成感と、あの時の約束を果たしたという満足感で僕の心は満たされました。その瞬間は船の上のほんの数分ですが、とても長い時間のような、時空を漂うような不思議な感覚でした。


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母はサービス付きの高齢者住宅で暮らしています。元気な人もいれば、車いすの人や介護を必要とする人も暮らしています。また関東近郊だけでなく、九州や北海道、被災した人なども多くいます。75歳の母も故郷を離れ新しい住民として、ルールや決まりを一から覚えるのは本当にタイヘンでした。右も左もわからず、先の見えない不安でいっぱいでしたが、奥さんや娘の協力もあり緊張も少しずつほぐれ、ようやく自分のペースを取り戻し始めました。

世代を超えた3人の後ろ姿を見て、『sketch 1』の冒頭に収録されているイラストが頭の中でピタッと重なりました。きっとこの瞬間のために描かれたのでしょうね。→ 「three ladies」

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僕も母も初めての体験だったケアマネージャーとの密接な関わり、かかりつけの病院とそれに伴う看護とサポート、介護認定に応じた仕組みやサービスなどの資料をしっかりと読み込んで、できる限り勉強しました。第一に母をしっかりとサポートするのが、僕ら家族の大事な仕事です。僕らが仕事や家のことをしながらどこまでサポートできるのかをまず考えました。スタッフの方やプロにお願いをするのはその後のことだと思っています。

毎年のように仕組みが変わる介護保険や医療制度と、それに関わる役所や施設の取り組み、どこまでがサービスでどこからがビジネスなのか、明確な線引きこそありますが、それだけでは難しい複雑な世界です。自分が納得のゆくまで担当の方ひとり一人と真剣に話し合いました。スタッフの方々と顔を合わせ、僕の考えを直接伝えることによって細かな意思疎通ができ、その結果、気持ちよく質問や確認、お願いができるようにもなっていきました。

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これから先、本当にどうなるかは誰もわかりません。でも、みんなが前を向いていることだけは確かです。帝釈天の帰りにあらためて強く、そう感じました。そんな僕らを父も寅さんも大きく頷いて、応援してくれると思います。

母と交わしたもう一つの約束が「一緒にコンサートに行こう」です。音楽のパワーは絶大だからです。さっそく今月、母が好きな井上陽水を家族で、さだまさしのコンサートは義父母とともに行ってきます!

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Author : Takahiro Koike