Nov 12,2018

ありがとうシストさん

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先週末、今も信じられない悲しい知らせがメルボルンから届きました。
ニュースでも報道されたメルボルン繁華街でのテロ事件で
『メルボルン案内 たとえば、こんな歩きかた』に登場してくださった
名物カフェ「Pellegrini's(ペレグリーニ)」のオーナーのシストさんが犠牲となり、
命を落とされたとのこと。今、店にはシストさんを愛した多くのお客さんたちが訪れ、
たくさんの花が手向けられているそうです。

わたしが「Pellegrini's」でシストさんにインタビューをしたのは街取材1日目で、
有名店の名物オーナーに忙しいなかで話を聞くということで、
お会いする前はとても緊張していました。ところが、
最初の挨拶でカウンター越しに交わした握手がとてもやわらかくあたたかだったこと、
写真通りのチャーミングな笑顔と、特徴的なしゃがれ声で語ってくれる話はどれも
メルボルンという街と人々への愛情にあふれたエピソードばかりだったことから
いつの間にか「このおじさんとずっと話していたい」と思ったことをおぼえています。

本にも書いたとおり、ここには紙に書いたメニューはなくて、
食事をしたければシストさんにそれを伝えて、
その日用意されたパスタ3、4種類の中から選んで注文をします。
お腹が空いていたわたしたちはミートソースのパスタやラザニアをいただくことに。
飾らない盛り付けのお皿が目の前に運ばれてくると、
そこにシストさんがチーズとペッパーをたっぷりかけてくれて
「ボナペティ!」ととびっきりの笑顔を見せてくれました。
インタビューも食事も終え、最後に支払いをしようとすると
やさしく首を振って「どうかよい本をつくってください。楽しみにしているよ」。
初日にこの店の取材が予想以上にリラックスしてできたことで、
わたしは大きなパワーをもらい、その後も乗り切れた気がします。

来月メルボルンに行ったら、本を持ってお店に行き、
シストさんに直接手渡すつもりだったのが叶わなくなってしまいました。
悲しいけれど、シストさんの人生最後の年の魅力的なお姿を本のなかに記録できた
その光栄をしっかりと感じながら、これからもよい本をつくっていこうと思います。

そして、今この世界に生きることができている身として、
今日という日と、ひとつひとつの出会いを大切にしようと思います。
ありがとう、シストさん。どうぞ安らかにお眠りください。

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Author : Nao Ogawa