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Mar 02,2016

働き方を考える

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今日も読者の方からのご質問にお答えしたいと思います。

「奈緒さんは、以前は出版社に勤めていたとどこかで読みました。
安定した企業を去り、フリーになると決めたときの心境はどうでしたか。
私はもう何年か大学で教える仕事をしていますが、
これが自分が本当にしたいことなのか、
他にしたいことや私だからできることは何だろうか、と考えてしまいます。
でもそれが何か、よく分からないのと
家族の将来のことを考えると怖くてなかなか踏んぎりがつきません。
奈緒さんは何に背中を押されましたか。怖くなかったですか」

私が会社を辞めてフリーランスになったのは、29歳のときでした。
その当時、スタイリストの友人と「こんな本をつくってみたいね」と話していた
Danny Lyonの写真集『I Like to Eat Right on the Dirt』 を久しぶりに開きながら
その時期のことを思い浮かぶままに書いてみようと思います。

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29歳のころ、私はまだ結婚も出産もしていなかったので、
正直、ただ自分自身の気持ちと向き合いさえすればよかったのでした。
大学を卒業してから二つの出版社で計6年間ほど会社員を経験しましたが
仕事上、常にフリーランスの人と組みながら働いていたせいもあり
自然に会社員とフリーランスの働き方を比較して考える機会が多くなって
年々、自分はフリーの方が向いているという確信が強くなっていきました。

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毎月決まった額のお給料が口座に振り込まれる立場から、
収入が不安定な立場への転身はもちろん不安もありましたし、
それはフリーであるかぎりずっとあるのだろうと思っています。
それでもフリーになったこと自体に後悔したことがないのは
自分らしい働き方をとことん突きつめて実践することができるのと、
それが私にとっていかに大切なことであるかが、よくわかっているからです。

でもフリーになれば思い通りに働けるかというと、そんな単純な話ではありません。
後ろ盾が何もない立場に心細くなることはたびたびあります。
それでも、どうしてもやる必然性を感じられない仕事は断ることができるし、
かわりに自分が今やるべきだと思えることに時間をあてることができる。
その自由を私は選びとったのだという自覚を、忘れないようにしています。

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「自分が本当にしたいことは何なのか」、それがわからないなら
できるだけいろんな人に相談して、客観的な意見に耳を傾けることをおすすめします。
私もフリーになる決断をした前後はいろんな人に相談にのってもらいました。
わからないと思っていても、人に話しているうちに自然に頭が整理されてきたり
「何がしたいか」ははっきりしなくても、「何をしたくないか」がはっきりしてくる、
ということもあると思います。

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もう一つ私自身の思い出に、大好きな村上春樹さんの小説を読みふけりながら
文章の一つ一つがまるで自分への大切な啓示であるかのように胸に響いて、
しだいに気持ちの揺れがおさまり、フリーになる決心がかたまっていった記憶があります。
いま振り返ると、ずいぶん都合良く自分に引き寄せて読んでいたんだなぁと思いますが
やっぱり本はたくさんのヒントをくれる、これは真実だと思います。

ちなみに、当時一人暮らしをしていたマンションの部屋で、女友達と
『I Like to Eat Right on the Dirt』みたいな本をつくろう、と盛り上がっていた計画は
独立してから数年間の、依頼はすべて引き受ける勢いで猛烈に働いていた日々の中で
どこかへ紛れて消えてしまいました。
でもあのとき「フリーになって自分の好きな本を自由につくる」という
シンプルな目標を持てたことは、独立後さまざまな経験で傷ついたり、
悩んだりする自分を支えてくれました。

フリーと社員のどちらがいいかという問いに明確な答えはありません。
自分で考えて、人にも聞いて、最後は自分で決める。
そうした下した決断には必ず何か意味があると、私は信じています。

*最近、みなさんからのご質問に答えるブログが
バラカン・モーニングというより
『村上さんのところ』( → BLOG )みたいになってきました(笑)。
BOOKSの『sketch』のコーナーにも最近新しいレビューが加わったのですが
これがまた面白く、読み応えのある文章で、
つくづく私たちはいい読者に支えられているなぁと感じました。
→ READER'S VOICE for sketch

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Author : Nao Ogawa